世帯分離とは何か?
「世帯分離」という言葉を聞いたことがありますか?
特に親御さんが介護状態になると、この話題をよく耳にすることがあるかもしれません。
それでは、まず「世帯」とは何かを確認してみましょう。
「世帯とは、ひとつの屋根の下に住み、かつ、生計を共にすること」です。
言い換えれば、「同居していること」+「生計を共にしていること」が世帯の定義になります。
例えば、
①「同居していない」場合、最初から別世帯となります。
②「同居している」が「生計を共にしていない場合」、それも別世帯となります。
世帯分離とは?
「世帯分離」とは、既存世帯の世帯員が住所を移動せずに新たな世帯を設けることを意味します。
結果として、同じ住所に複数の世帯が存在し、それぞれに世帯主がいる状態になります。
これは、上記②の「同居しているが、生計は別」となる場合に該当します。
例えば、お子さんが結婚後も親御さんと同居しているが「生計が別」である場合や、離婚したお子さんが実家に戻ってきたが「生計は別」といったケースです。
なお、世帯分離届という名称はなく、「異動届出書」などを役所に提出する形となります。
親子や夫婦でも世帯分離は可能?

- 親子の場合
親子であれば、「生計が別」であれば世帯分離は可能です。
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夫婦の場合
共働き夫婦の事例を見てみましょう。
例えば、A市からB市に引越しした共働きの夫婦(生計は別)が、A市では同じ場所に住んでいながら、お互いが世帯主として別世帯を形成していた事例(参照:地方自治問題解決事例集1行政編 地方自治問題研究会編著)があります。
B市でも同様に世帯分離を届け出たところ、原則として「同一住所地の夫婦は世帯分離が不可」とされていました(民法752条:夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない)。
しかし、例外として「生計が別」の実態があれば、夫婦でも世帯分離が認められるという見解が示されました。
この場合、役所が実態を確認するために、源泉徴収票や課税証明書などの証明資料を提出するよう求められることがあります。
親が介護状態になると「世帯分離」の話が出る理由
親が介護状態になると、「介護費用」の問題が出てきます。
介護保険制度では、サービス利用者(65歳以上)は、所得に応じて自己負担額が1割~3割となります。
介護サービス費用に加えて、介護施設に入所すると施設費用もかかります。
このような負担を軽減するために「高額介護サービス費」などの軽減制度があります。
例えば、お子さんが住民税課税で実家に戻り、介護サービスを受けている親(住民税非課税の場合)と同一世帯だった場合、自己負担の上限額は4万4千円程度になります。
しかし、世帯分離をして、親とお子さんが別世帯になった場合、自己負担上限額が1万5千円に軽減される可能性があります。
このように、世帯分離することで介護費用が軽減されることがあります。
介護施設への入所と世帯分離の関係
親が介護が進み、特別養護老人ホーム等に入所することになった場合、「世帯分離」ではなく、住民票を施設に移す「転居届」を提出することが多いです。
これにより、別世帯となり、施設の食費・居住費が軽減される場合があります。
これも単身世帯として、親の所得だけで判断されるため、費用の軽減が図られるのです。
まとめ

世帯分離とは、「ひとつの屋根の下に住みながら、生計が別である」ことが必要です。
世帯分離を実施することで、介護費用の軽減など、いくつかのメリットを享受できる場合があります。
ただし、家族に複数の要介護者がいる場合など、世帯分離によって逆に不利になる場合もありますので、注意が必要です。
世帯分離を主張するためには以下の条件が考えられ、少なくとも下記の1.2.5は必要との見解を示されています(太田哲二先生の著書より抜粋):
- それぞれに十分な収入があること
- 銀行通帳が別々であること
- 自分の収入のうち、配偶者の意向に関係なく自由に使える部分があること
- 食事を別々に摂ることが多い
- 表札が別々に記載されている(例えば、姓だけの表札や一人だけの表札は同一世帯と見なされる)
また、高齢の親と現役世代の子が世帯分離を行うことで、後期高齢者医療保険料や介護保険料が変更になる場合もあります。
このように、生計が別であれば世帯分離は可能で、メリットがある反面、デメリットもありますので慎重に検討しましょう。