起業や経営者は「簿記の知識」は必要でしょうか。必ずしも必要ではありませんが、私はある程度必要だと考えています。簿記の知識は会社経営をしていく上では「言語」のようなものです。
例えば、金融機関から創業時に融資を受けるとき、起業家が簿記の知識があれば、よりスムーズにすすむことができるでしょう。簿記の知識がないからと言って融資が受けられないことはありません。
起業家や経営者が簿記の知識があれば、ビジネスが軌道に乗った後でも、金融機関からの融資の他、自社の決算書からみえる問題点や方向性を自ら導きやすくなるのではないでしょうか。
ただし、簿記の知識といっても、どのレベルまでということもあります(例えば、日商簿記1級なのか、2級までなのか、3級程度でよいのか)。簿記1級まで取得するとなると、本業に支障がでるほど時間がかかります。本業に支障がでては本末転倒です。
そのような中で知識習得にあまり時間をかけずに、実務に役立つ日商簿記3級相当の知識をおすすめしています。
起業家自身で会社の財務状態の把握も
ただし、簿記は非常に独特です。私は、初めて学習したときはさっぱりでした。今でも覚えているのは、「借方」・「貸方」の言葉の意味を考え、全く先に進みませんでした。
当時の簿記学校の先生が、「借方」・「貸方」には、特に意味はなく、左が借方、右が貸方と暗記すればよいと散々説明されたことを思い出します。
さて、「簿記とは?」、簿記とは「帳簿記入」の略とも言われており、会社は、ものやサービスを売ったり買ったりすることの他に、お金を借りたり、事務所費や電気代などを支払ったり様々な活動を行っています。これらを記録する必要があり、記録の取り方に一定のルールがあります。
このルールを学習することが簿記の学習です。この一定のルールに従って会社の活動を記録することでご自身の会社に「どのくらいの現預金があり、借金があるのか」といった財政状態や「いくら使っていくら儲かったか」等の経営成績を知ることができます。
単式簿記と複式簿記
簿記の勉強もしたことのない人でも「単式簿記」はわかります。単式簿記とは一つの取引を一面にのみに注目して記録するのでシンプルです。代表例としては、多くの人が子供の頃に記録したと思われる「お小遣い帳」です。
一方、日商簿記3級で勉強するのは、「複式簿記」です。「複式簿記」は一つの取引を2面的に捉えて記録を行います。このことが簿記を難しくしている原因です。
例えば、「家賃50,000円を普通預金口座から引き落とされた。」場合、複式簿記では、この取引に2つの事柄があるのを見つけます。
つまり、何が増えて、何が減少したのかです。ここでは、
①普通預金口座からお金が減少する、
②家賃が発生する、という2つの要素に分解ができます。
次に見つけた事柄毎に、使用する勘定科目を選び、それが資産・負債・純資産・収益・費用のうちどのグループに分類されるかを判断します。
普通預金は「預金」という勘定科目を使い「資産」、家賃は「支払家賃」という勘定科目で「費用」となります。
そして、選んだ勘定科目を借方に書くのか貸方に書くのかを判断することになります。預金という資産が減少し、支払家賃という費用が増加することになります。
「資産」は増えると「借方」、減少すると「貸方」、「費用」が発生すると借方というルールがあります。その結果、(借方)支払家賃50,000(貸方)(普通)預金50,000となります。※詳しくは市販されている日商簿記3級のテキスト(TAC)は初心者でもわかりやすく書かれています。
このように簿記を勉強されたことのない人は「(借方)支払家賃50,000(貸方)預金50,000」をみて、たぶん意味が分からないでしょう。
ただ、簿記の勉強をした人は、普通預金口座から家賃50,000円が引き落とされたとすぐにわかります。また、預金という資産が減り、支払家賃という費用が発生したことも同時に理解できます。
|
元本返済は費用?
以前、このようなお話を聞いたことがあります。創業後間もないCさんは、銀行から創業融資を受け、事業を開始しました。当初は利息のみの支払いでしたが、6カ月後から元金の返済が始まりました。そのときにCさんは、利息と同様、元金返済分も費用となると思い込んでいて、今期はトントンだと認識していたそうです。
その後、決算を迎えたときに、元金の返済は費用で処理できないことを初めて知り、慌てたそうです。これは極端な事例かもしれませんが、簿記の知識がないとこのようなことも考えられます。
簿記の知識があれば、お金を銀行から借りたときは、借入金という負債が増えると同時に預金が増加しています。利息は毎月支払利息として費用として計上しています。その後、元金の返済が始まったので、資産である預金が減少して、借入金という負債が減少します。
費用は発生しませんので、元金返済額は儲けには影響を与えないことになります。ご参考までに、次のような場合の仕訳はみましょう。
①銀行からお金を100,000円借り、預金に振り込まれた場合、(借方)預金100,000(貸方)借入金100,000となります。つまり、預金という資産が増加し、借入金という負債が増加します。
②元金5,000円を返済した場合には、(借方)借入金5,000(貸方)預金5,000となります。借入金という負債、預金という資産も減少します。このように貸借対照表に関することだけで、損益計算書は全く関係ありません。
まとめ
起業しようと考えている人は、簿記の知識はあったほうがいいでしょう。レベルも時間や負荷が少ない日商簿記3級相当の知識で大丈夫です。簿記の知識があると貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)をある程度読むことができるようになっているはずです。
その結果、会社の実態もある程度見えてきて、仮にはっきりと問題点が分らなくても自身の決算書をみて違和感を感じれば十分です。その後の対策は専門家に任せることもできます。起業家は、ざっくりと把握するためにも簿記3級相当の知識は身につけてはどうでしょうか。