介護費用について、まだまだ先の話だと感じる方も多いかもしれません。
特に自分自身の介護については、遠い未来の話に思えることがほとんどです。
しかし、親の介護に関しては、そんな悠長なことを言っている場合ではありません。
親の健康が急に悪化したり、思いがけない事故がきっかけで介護が必要になるケースも少なくありません。
その際に十分な準備ができていなければ、家計に大きな負担がのしかかることになります。
例えば、親が認知症などで判断能力が低下した後では、預金口座が凍結されたり、新たな契約行為ができなくなることがあります。
そのため、必要な手続きが思うように進まず、経済的な管理に大きな制約が生じることになります。
こうした状況で法定後見制度を利用すると、後見人として家庭裁判所から専門職が選任されることがあります。
この場合、毎月の財産額に応じて報酬が発生し、仮に、その報酬額が月に2万円~3万円程度とすると年間で24万円から36万円、さらに介護期間が長期化すれば、10年間で240万円から360万円の費用がかかることになります。
しかし、事前に適切な対策を講じることで、こうした事態を回避することが可能です。
親が生命保険の加入について相談をしてきたり、お墓や葬儀の話をするようになった場合は、将来の備えについて話し合う良い機会です。
また、最近、物忘れが増えてきたと感じるようであれば、親の気持ちに配慮しながら「知り合いの○○さんのお父さんが認知症になって、大変だったらしいよ」といった話をさりげなく伝えることで、早めの準備の大切さを意識してもらうことができます。
介護が始まる前に家族で話し合い、適切な備えをしておくことで、将来的な負担を大きく軽減することができます。
この記事では、介護費用が家庭に与える影響や、今から備えることの重要性、そして具体的にどのように準備を進めるべきかを解説します。
さらに、従業員の方が介護費用への備えを通じて安心して働ける環境を整えるための企業の取り組みについても触れています。
介護費用の現実—平均的な金額とその影響

まず、介護費用の実態を見てみましょう。
介護費用は、利用するサービスや介護の形態によって大きく異なります。
以下は、生命保険文化センターが実施した「2024(令和6)年度生命保険に関する全国実態調査(全体版)」を参考にします。
なお、特に予測が不可能である介護期間によっては介護費用は大きく変わることに注意が必要です。
- 在宅介護の場合
訪問介護やデイサービスを利用する場合、自己負担額を含めた平均的な費用は月額5.2万円です。ただし、この金額は要介護度やサービスの利用回数によって変わります。
- 施設介護の場合
特別養護老人ホームなどの施設では、月額13.8万円が必要とされています。この費用には、食費や居住費なども含まれています。
- 一時的な費用
住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的にかかった費用の平均は47万円です。このような初期費用も忘れずに見積もることが大切です。
- 介護期間
介護を始めてからの期間(介護中の場合は経過期間)をみると、平均 55.0 カ月(4年7 カ月)となっています。
在宅介護の場合:
これらを単純に計算すると:
一時的な費用47万円+5.2万円×55カ月=333万円
仮に、10年間介護が必要であると671万円
施設介護の場合:
一時的な費用47万円+13.8万円×55カ月=806万円
仮に、10年間だとすれば、1703万円
このように介護が長期化すると、経済的負担は大きくなります。
「2024年度生命保険に関する全国実態調査」によると、介護期間が10年以上に及ぶ割合は14.8%にのぼります。
私の知人の中にも、10年以上にわたって介護を続けた方がいます。実際、私自身の経験でも同様でした。
これらの費用は突然発生することが多く、特に事前準備が不足している場合、生活費や貯蓄に大きな影響を与えます。
さらに、長期化する介護では上記のように各段に費用がかかることもあり、家計が圧迫される原因となります。
私自身も、親が60歳で突然倒れた際には全く準備ができておらず、対応に右往左往した経験があります。
このような事態に備えるためにも、早めの準備が必要だと痛感しました。
自分の介護はなぜ今から備えるべきなのか
多くの人は介護を「自分には関係ない」「まだ先のこと」と考え、準備を後回しにしがちです。
しかし、介護が必要となる時期は予測が難しく、早期の準備が重要です。
特に、資産運用を活用して介護費用を準備することで、万が一介護が不要だった場合でも、その資産は他の目的に活用でき、無駄になりません。
介護の準備は、将来の不安を軽減するだけでなく、予期しない状況に備える賢い選択です。
早めの準備が必要な理由
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介護は突然始まる
介護が必要になるタイミングは予測できません。急な病気や認知症の発症、思わぬ事故など、家族が突然対応を迫られることもあります。事前の準備がないと、金銭的にも精神的にも大きな負担となります。 -
十分な準備期間を確保できる
介護費用に備えるには、計画的な貯蓄や資産運用が必要です。早い段階で準備を始めることで、家計に余裕を持たせながら必要な資金を確保できます。 -
精神的な安心につながる
介護費用の準備が整っていると、いざという時のストレスが大幅に軽減されます。さらに、家族間の金銭トラブルを避けるためにも、早めの対策が欠かせません。
「まだ大丈夫」と思っている今こそ、将来に備える絶好のタイミングです。早めの準備で、家族みんなが安心できる環境を整えていきましょう。
企業が取り組むべき支援策

従業員が安心して働ける環境を整えることは、企業にとっても重要な課題です。以下は、介護費用への備えを支援するために企業が実施できる取り組みの例です。
- 介護費用に関する情報提供
従業員が介護費用の実態を理解し、計画的に準備を進められるよう情報を提供します。例えば、介護にかかる平均的な費用や介護保険制度、公的な相談先などの活用方法についてのセミナーや資料配布が有効です。
- 社内での相談窓口設置
介護に関する相談窓口を設置し、従業員が気軽に情報を得られる環境を整えます。これにより、介護費用の不安解消や具体的な準備方法についてアドバイスを受けることができます。
- フレキシブルな勤務体制の導入
介護が必要な従業員が働き続けやすいよう、テレワークや時短勤務などの柔軟な勤務形態を導入することも重要です。また、具体的な事例※1として、ある企業では従業員が介護休暇を取得しやすい制度を導入し、さらに介護に関する情報を定期的に提供することで、働きやすい環境づくりを進めています。
※1 平成29年度版「仕事と介護 両立のポイント あなたが介護離職しないために」厚生労働省
未来への備えを始めましょう
介護費用への備えは、早ければ早いほど安心を得ることができます。
従業員が将来に向けた準備を整えることで、企業全体の生産性向上や離職率低下にもつながります。
従業員が安心して働ける環境を提供するために、ぜひ今回ご紹介した取り組みを検討してみてください。
また、介護に備えることで、家族全体の将来設計がスムーズになり、金銭的な不安を軽減することができます。
計画的な準備は、働く人々の生活の質を向上させるだけでなく、企業としても持続的な成長を支える基盤となります。
まとめ
介護費用は、家計に大きな負担をもたらす可能性がありますが、早めの準備でその影響を大きく軽減することができます。
本記事で紹介した通り、計画的な貯蓄や制度の活用、柔軟な勤務体制の導入など、個人や企業ができる対策はさまざまです。
特に企業は、従業員が安心して働ける環境を整えることで、生産性向上や職場の安定化につながるメリットがあります。
いざという時に慌てないためにも、今日から行動を始めてみてはいかがでしょうか。
未来の安心のため、早めの対策を進めていきましょう。