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親のお金の管理、どうする?認知症になる前にやるべきこと

親が高齢になり、物忘れが増えたり、身体の調子が不安定になったりすると、「親のお金の管理」をどうするか悩むことが多くなります。

 

特に、認知症を発症してしまうと、銀行口座の引き出しや日々の支払いができなくなり、結果的に家族が管理をしなければならなくなる可能性があります。

 

事前に準備をしておかないと、後々対応が難しくなることも多いため、今のうちから対策を考えておくことが非常に重要です。

 

できるだけ簡単に、親自身が元気なうちに家族でスムーズに対応できる方法を考えましょう。

まずは親とお金の話をする

親とお金の話をすることが、親のお金を適切に管理する上で最も大切です。

 

多くの人は「お金の話をすると嫌がられるのでは?」と心配するかもしれませんが、親が元気なうちに話をすることが、後々の安心感につながります。

  • 話し合いのきっかけを作る

お金の話を子どもから切り出すのが難しいと感じるかもしれませんが、自然なきっかけを作るとスムーズに話が進みます。

 

例えば、「最近、詐欺のニュースが多いよね。これからのお金の管理もちゃんと考えた方がいいかな」といった形で、親にとっても心配になる内容を取り上げることで、受け入れやすくなります。

  • 質問を投げかけて整理する

話し合いがスムーズに進むと、具体的な質問を投げかけながらお金の管理を整理していきます。

 

「通帳や印鑑の保管場所はどこにあるか?」、「毎月の支払いにはどんなものがあるか?」、「親が認知症になった場合、どのように対応してほしいか?」といった質問を通じて、親の現在の状況と希望を把握することができます。

 

さらに、「自分でお金の管理ができなくなった場合、どうしてほしいか?」といった質問をして、将来に向けた希望や対策についても聞いておくと、万が一の時にもスムーズに対応できます。

代理でお金を管理する方法

親の判断能力があるうちに、家族でお金を管理できる方法を準備しておくことが重要です。これにより、万が一親が介護が必要になった時でも、すぐに対応できるようになります。

  • 代理人カードの利用

親の銀行口座に「代理人カード」を作成する方法があります。これは、1つの口座に対して2枚のキャッシュカードを発行できる仕組みで、家族が親の代わりに引き出しや支払いを行えるようになります。

 

この方法のメリットは、親が元気なうちは自身で管理を続けられる一方、体調の変化などで銀行に行けなくなった際に家族がサポートできる点です。

 

ただし、銀行によって取り扱いの有無や条件が異なるため、事前に確認が必要です。

 

また、代理人カードを利用して引き出したお金については、後々の相続トラブルを避けるため、使途を明確にし、家族間で共有しておくことが重要です。

 

推定相続人が複数いる場合、勝手に引き出したと誤解されないよう記録を残すなどの工夫をしましょう。

  • 「預り金契約書」の作成

親が子どもにお金を預ける際には、契約書を必ず作成することが重要です。契約書には預ける金額などを明記し、双方が合意した内容をしっかりと記録しておきましょう。

 

預かったお金は、子どもの個人口座とは別に、子ども名義の口座で管理することが大切です。このように分別管理することで、万が一のトラブルを避けることができます。

 

また、親が介護を必要とする場合、その支出の明細や領収書をきちんと管理することも重要です。

 

また、親が公的介護保険施設に入所する際、「居住費・食費」が軽減される補足給付を利用する場合、預貯金などを申告する必要があるため、預かったお金も預貯金に含めて申告しなければなりません。

 

さらに、相続が発生した際にも、預かったお金は相続財産に含まれることになるため、その点についても十分に注意が必要です。

  • 成年後見制度の利用

親が認知症になった場合、成年後見制度を利用することができます。この制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

 

〈法定後見制度と任意後見制度の違い〉

法定後見制度は、すでに判断能力が不十分な状態にある人を保護・支援するための制度です。

 

一方、任意後見制度は、判断能力があるうちに将来、認知症などで自分の意思を伝えられなくなることを予想して、財産の管理や身の回りのことを代理してもらう人を予め選んでおく制度です。

 

つまり、将来に備えて、信頼できる人に後見をお願いする契約です。

 

〈任意後見契約の種類〉

任意後見契約には「将来型」、「移行型」、「即効型」の3種類の契約形態がありますが、最も多く利用されているのは「移行型」です。

 

この契約では、まず「財産管理等委任契約」を結び、判断能力が低下してきた段階で、任意後見契約に切り替えることができます。

 

〈任意後見契約を結ぶ際の流れと費用〉

任意後見契約を結ぶ際は、公正証書で契約を行う必要があります。

 

この契約の費用は、おおよそ2万円~3万円程度かかります。ただし、契約を結んだだけでは効力は発生しません。

 

いわゆる「転ばぬ先の杖」としての準備に過ぎません。契約を有効にするためには、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任を申し立てる必要があります。

 

〈任意後見監督人の役割と費用〉

任意後見契約が有効になった後、家庭裁判所が選任した任意後見監督人が監督を行います。

 

この監督人は、任意後見人(実際に後見業務を行う人)が適切に業務を行っているかを確認し、定期的に家庭裁判所に報告します。

 

監督人がつくと、月々1万円~2万円程度の費用が発生します。

 

〈任意後見契約の制約〉

任意後見契約では、任意後見人は本人の財産を勝手に使ったり、相続対策を行ったりすることはできません。

 

たとえば、本人が生前に贈与を行った場合でも、任意後見人にはその贈与を取り消す権利はありません。

 

しかし、任意後見契約が始まっている以上、本人の判断能力が低下していることを前提に、贈与が無効となる可能性もあります。

 

※参照 日本公証人連合会 任意後見契約

 

  • 民事信託の利用

民事信託は、家庭裁判所の監督を受けることなく、財産の凍結を防ぐ手段として有効です。

 

これは、財産管理を柔軟に行いたい場合に利用されます。成年後見制度とは異なり、民事信託では財産の管理や処分を、必要に応じて柔軟に行うことができるため、より自由度の高い方法と言えます。

 

 

信託とは、信じて託すということで、例えば、将来、認知症になって判断能力がなくなる不安のある人(親)は、判断能力のあるうちに、家族(子ども)に財産を信じて託すことになり、財産の給付や分配は親になります。

 

 

つまり、委託者(親)が受託者(子ども)に自宅の管理・処分権等を与えて受益者は親になります。

 

 

 

 

民事信託を利用すると、例えば、親が認知症を発症して介護費用を捻出する必要が生じた場合、受託者である子どもは自宅を売却してその資金を介護費用に充てることができます。

 

このように、民事信託は将来の不安に備えて、財産管理をスムーズに行うための有力な手段となります。ただし、デメリットもありますので慎重に検討しましょう。

 

生前贈与や遺言などのそのほかの生前対策を考える

将来の相続問題を減らすためには、生前贈与を活用したり、遺言を作成することも有効です。

  • 生前贈与の活用

 

生前贈与には大きく分けて「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2つの方法があります。

 

「暦年贈与」は、年間110万円までの贈与については贈与税がかからないため、少しずつ資産を移転することで相続時の税負担を軽減できます。

 

親が元気なうちに、毎年少額ずつ贈与することで、相続時に一度に大きな税負担がかからないようにすることが可能です。

 

例えば、子どもに毎年110万円を贈与することで、贈与税の非課税枠を活用できます。これにより、相続時に過剰な税金を支払うことなく、資産を次世代にスムーズに引き継ぐことができます。

 

ただし、令和6年1月1日以降、贈与に対する相続税の持ち戻し期間が3年から7年に延長されました。

 

「相続時精算課税制度」は、贈与と相続を一体的に捉え、過去に行った生前贈与を相続時に取り込んで相続税を計算する制度です。

 

この制度を利用すると、暦年贈与は利用できなくなりますが、まとまった財産を一度に贈与することが可能です。

 

令和6年1月1日からは、相続時精算課税制度に新たに110万円の基礎控除枠が創設され、特別控除枠は引き続き2,500万円となり、制度の使い勝手が向上しています。

 

国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合

  • 遺言書の作成

親の意向を尊重するためには、遺言書を作成することが重要です。

 

例えば、「特定の子どもに多く渡したい」「遺産分割でトラブルを避けたい」などの希望がある場合、遺言書に記載しておくことが効果的です。

 

遺言書は法的効力を持つため、相続争いを防ぐためにも非常に有効です。

 

また、遺言書には付言事項を必ず入れておくことをお勧めします。

 

付言事項は、遺言者の考えや感情を伝えるための補足的な内容で、特に家族間での理解を深めるために役立ちます。

 

例えば、「財産の分け方に関しては、あなたたちが平等に協力して仲良くしてほしい」など、遺産の分配に関する意図を明確に伝えることができます。

 

このように、遺言書を通じて親の意図をしっかりと残しておくことが、後々のトラブルを防ぐために非常に重要です。

 

遺言書には「普通方式」と「特別方式」があり、普通方式には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。実務上よく利用されるのは「自筆証書遺言」「公正証書遺言」です。

 

「自筆証書遺言」は、最も手軽で費用もほとんどかからないため、作成のハードルが低いです。しかし、その分、「無効になったり」「争いのもとになる可能性」が高いというリスクがあります。

 

「公正証書遺言」 は、公証人に遺言の内容を伝え、それを公証人が書面にしてくれるものです。無効になるリスクが少なく、安全で確実な遺言が作成できます。ただし、手間がかかり、費用もかかります。

 

リスクを避けるためには、公正証書遺言を作成することを強くお勧めします

 

もし、公正証書遺言の作成まで時間がかかる場合などには、その間に何かあった時のために、自筆証書遺言を作成しておくのも一つの方法です。

 

親のお金の管理を助けるツールやサービスの活用

近年では、親の財産管理を助けるためのツールやサービスも増えてきました。例えば、ファイナンシャルプランニングソフトを使って親の資産状況を可視化することで、管理がしやすくなります。

 

また、お金の見守りサービスを活用することで、親の生活費や支払い状況を家族が確認できるようになり、安心して見守ることができます。

まとめ

親のお金の管理をどうするかは、早めに準備を進めることが重要です。親が元気なうちにしっかりと対策を取ることで、後々のトラブルを避け、家族全員が安心して過ごせるようになります。

 

まずは親との話し合いを行い、管理方法を整理することから始めましょう。その際、どのように財産を管理するか、誰が責任を持つかを明確にしておくことが大切です。

 

また、親が自分で管理できるうちに、家族がスムーズに対応できる体制を整えるために、代理人カードなどを活用することを検討しましょう。

 

万が一、親が認知症になった場合には、任意後見制度や民事信託などを利用することで、親の意思を尊重した財産管理が可能となります。ただし、元気なうちに行う必要があります。

 

これにより、親の生活や財産を守ることができます。また、生前贈与を上手に活用することで、相続時の税負担を減らし、資産をスムーズに次世代に引き継ぐことができます。

 

親の状況に合わせて、今からできることを少しずつ準備しておくことが、いざという時に慌てずに対応できるカギとなります。

 

家族全員が安心できる環境を作るために、早期の準備が非常に重要です。

 

ご相談を受け付けておりますので、まずはお気軽にご連絡ください。

 

具体的な対策について一緒に考え、最適な方法を提案させていただきます。