親の物忘れが増えたり、最近やたらと生命保険や葬儀の話をするようになったりすると、「このまま介護になったらどうしよう」「お金は大丈夫なのか」と不安になるものです。
特に、親の年金や貯金だけでは将来的に生活が維持できないと感じる場合、早めの対策が重要になります。
今回は、親の年金と貯金で不足する場合にできる対策を、ファイナンシャルプランナー(FP)・行政書士の視点から解説します。
まずは現状を把握する

まずは親の収入と支出を確認しましょう。
親の介護や将来の生活を考えるとき、まずは親の収入と支出を把握することが大切です。
【収入の確認】
- 年金額
- 退職金の有無
- その他の収入(賃貸収入や投資など)
【支出の確認】
- 生活費
- 医療費
- 固定費(住宅ローンや管理費など)
- その他
また、貯金や保有している資産(不動産・株式など)も確認し、今のままでどのくらいの期間生活できるのか試算してみることが大切です。
親が話してくれないこともある
とはいえ、親がすんなりと財産の話をしてくれるとは限りません。
例えば、こんなケースがありました。
母親が介護が必要になり、子どもが父親に「介護費用は大丈夫?」と聞いたところ、父親は「大丈夫」としか言いませんでした。
でも、子どもは父親がどれくらい年金をもらっているのか、どんな財産を持っているのか、まったく知らなかったのです。
そこで、親子で一緒に相談に来られました。
実はお父さんはしっかりとキャッシュフロー表などを作成していて、それを初めて見た子どもはとても安心していました。
このように、親は「子どもに迷惑をかけたくない」と思うあまり、お金のことを話さないことがあります。
また、子どもがあまりに細かく聞くと、「財産を狙っているのか?」と警戒されてしまうこともあります。
親の気持ち、子どもの気持ち
子どもからすれば、「もし親のお金が足りなくなって、支援を頼まれたら?」と不安になりますし、自分の老後の生活も気になります。
親を支援した結果、自分の老後資金が足りなくなってしまったら、本末転倒です。
だからこそ、親と子どもがそれぞれの気持ちを理解し合い、話しやすい雰囲気を作ることが大切です。
子どもは、「親の財産が知りたい」のではなく、「いざというとき困らないように、事前に考えておきたい」という気持ちを伝え、少しずつ話をしていきましょう。
話し合いをスムーズに進めるためにも、調整役として第三者等を入れて行うのも一つの方法です。
お互いに納得できる形で話し合いができると、安心してこれからのことを考えられます。
足りない分を補うための選択肢
現状分析の結果、年金と貯金だけでは不十分な場合、以下の対策を検討しましょう。
【介護費用の軽減制度を活用する】
- 公的介護保険
親御さんが公的介護保険を利用したくないと思うこともあるかもしれません。
しかし、自己負担を少しでも軽くするためには、ぜひ活用することが大切です。
介護の専門家からのアドバイスを受けることもでき、支援が手厚くなるので、積極的に利用しましょう。
- 高額介護サービス費
介護サービスにかかる自己負担額が一定額を超えた場合、払い戻しを受けられる。費用面での安心感が増すので、申請を忘れないようにしてください。
- 高額医療・高額介護合算制度
医療費と介護費の合計が一定額を超えた場合、自己負担が軽減される。もし医療や介護の費用が大きな負担になった場合、こちらも申請を忘れずに。
介護保険施設入所者等の人で、所得や資産等が一定以下の方に対して、負担限度額を超えた居住費と食費の負担額が介護保険から支給される。
該当すると、「居住費・食費」で6割程度軽減される場合がある。
- 住民税非課税世帯向けの助成制度
各自治体によっては要介護者向けなどに独自のサービスがある。
- 医療費控除
介護費用も一定の要件を満たした場合、医療費控除の対象になります。確定申告することで、所得税・住民税の軽減になる。
65歳以上の方で、障害者手帳を持っていない場合でも、要介護1などの重度でない状態の場合でも、介護保険課で「障害者控除対象者認定書」を申請することを検討してみてください。
実際に私の親が住んでいる自治体では、要介護1が基準となっていました。
この認定書を取得することで、税負担を軽減できる場合があります。
ただし、各自治体によって基準が異なるため、お住まいの自治体での詳細を確認することが大切です。
親の資産を活用する

親が持っている資産を活かす方法もあります。
不動産の活用:自宅を売却・賃貸(リバースモーゲージやリースバック)することで生活資金を確保
自宅を売却して、介護費用に充てる方法は一つの選択肢ですが、売却には時間がかかることを覚えておく必要があります。
また、自宅を売ってしまうと、もし介護施設に入った後に「家に帰りたい」と言った場合に帰る場所がなくなる可能性もあるため、その点も慎重に考える必要があります。
- リバースモーゲージ
リバースモーゲージの仕組みは、保有している住宅を担保に毎月一定額の融資を受けるタイプと一時金としてまとめて受け取るタイプなどがあります。
融資に関する金利は変動金利が主流で、利息のみを返済するタイプと亡くなった時に元利金を一括で返済するタイプがあります。
デメリットは「契約者が長生きをした場合」、「金利が上昇した場合」や、「不動産評価額の低下」があります。
- リースバック
リースバックは、自宅を専門の不動産会社に売却し、その後は売却した自宅に賃貸として住み続ける方法です。
特に、介護費用を今すぐにでも捻出したい方にはぴったりな方法です。売却してすぐに現金化できるため、急な費用が必要な時には便利です。
例えば、夫が介護状態になり、介護施設に入居することになった場合でも、妻は自宅に住み続けることができます。
将来的に、買い戻しもできるため、住み慣れた家で過ごし続けることができるのが大きな魅力です。
しかも、資金の使い道に制限がないため、介護費用だけでなく、老後の生活費にも使えます。
ただし、デメリットもあります。売却価格が通常の売却より安くなることが多いこと、毎月の家賃が普通の家賃より高くなること、敷金や礼金などが必要になることがあります。
そのため、ランニングコストについてはしっかり把握しておくことが大切です。
※リースバックについて、国民生活センターより注意喚起があります。2023年6月13日:公表
「自宅を売っても住み続けられる?リースバックは慎重に検討して!」
生命保険の見直し:
生命保険の見直しについて考える際、まず大切なのは、自分にとって本当に必要な保障を見極めることです。
多くの方が死亡保険や医療保険、がん保険に加入しているかと思いますが、月々の保険料が2~3万円かかっていることもあります。
しかし、死亡保険が本当に必要か、少し立ち止まって考えてみましょう。
近年では家族葬が普及し、葬儀費用が低価格化しているため、以前ほど大きな死亡保険金が必要でない場合も増えています。
死亡保険のメリットとしては、一定の条件を満たすことで非課税枠が適用されることや、受取人を指定できる点などが挙げられます。
しかし、相続税がかからない場合や、受取人を指定する必要がない場合には、死亡保険の必要性が低くなることも考えられます。
長年加入していると、やめるのがもったいないと感じる方も多いですが、介護などでお金がかかる時期に差し掛かると、今後の保険料の支払額を計算し直すことが重要です。
その結果、解約を選択することがベストだと感じる場合もあります。
私自身の経験として、親が死亡保険に加入しており、毎月1万6千円ほど支払っていました。
しかし、平均余命などを考え、またその時期に介護が必要になったため、これからの支払期間を考えた結果、保険を解約しました。
半年後に亡くなったのですが、その選択に後悔はありません。
それよりも、長期間払い続けることが私にとってデメリットだと感じたからです。
このように、結果は予測できませんが、介護費用がかかると分かっていれば、保険を解約して資金を捻出するのも損だとは言えないでしょう。
また、介護にお金がかかることが予想される場合、葬儀代を抑えるという選択肢もあります。
医療保障やがん保障も同様で、高齢になると入院のリスクが高くなりますが、高額療養費制度などの支援策もありますので、過度に心配する必要はないかもしれません。
月々の保険料が本当に必要か、どの保障が自分にとって最適かを再検討することが大切です。
保険の見直しは少し難しく感じるかもしれませんが、自分に合ったプランを見つけるために、一度見直してみることをおすすめします。
民事(家族)信託の活用:
民事(家族)信託とは、「親が信頼している子どもなどにご自身の財産を託して親のために管理・処分をしてもらう手続き」です。
具体的には、財産の所有者である「親(委託者)」がお元気なうちにその財産の名義だけを「子ども(受託者)」に変更し、その権利は今まで通り「親(受益者)」が受け取ります。
これにより親が認知症になった後も変わらず適切な財産管理ができます。
例えば、親が委託者兼受益者となり、子どもを受託者として、自宅と金銭を信託します。
親は今まで通り自宅に住み生活を続けます。
将来、万一、認知症が発症し、判断能力が低下した時に、有料老人ホームへの入居資金として、受託者である子どもが自宅を売却し、その売却代金を親の入居費用(介護費用)に充当することができます。
不動産や保険の活用は、専門的な知識が必要なため、FPや司法書士、行政書士などに相談するのがおすすめです。
家族で資金援助を考える
子ども世代が親の生活費を支援する場合、以下の方法があります。
- 年間110万円以内の贈与(贈与税がかからない範囲での資金援助)
- 親の生活費を仕送りする:贈与税の対象外です。ただし、そのお金で株式や不動産などを購入した場合は、贈与税の対象になります。
ただし、家族内で金銭的な支援を行う際には、お互いの経済状況を理解し合い、後々のトラブルを避けるためにも、しっかりと話し合い、領収書などを残すことが重要です。
認知症になる前の財産管理対策を行う

親が認知症になった場合、財産の管理が難しくなり、思うようにお金を使えなくなる可能性があります。
そのため、早めに対策を立てておくことが大切です。
【任意後見契約】
親が元気なうちに、信頼できる人(子どもなど)を後見人として指定し、将来の財産管理や身上監護などを任せます。
メリット
- 本人が元気なうちに自分の意思で後見人を選ぶことができる
- 代理してもらいたいことや報酬額を契約で決めることができる等
デメリット
- 公正証書で作成する必要があり、手間や時間がかかる
- 発効する場合は、後見監督人が家庭裁判所から選任され、監督人に対してずっと報酬支払いが発生する
- 後見監督人に定期的に報告する必要がある
- 財産を自由に活用できない等。あくまでも本人のためが大原則。
【家族信託】
親が認知症になっても、指定した家族が財産を管理できる仕組みです。
メリット
- 自宅の売却など財産管理が柔軟に行える
- ランニングコストは無報酬とすることができ、費用は初期費用のみである等
デメリット
- 完全に信頼できる家族が必要である
- 財産を任せることに抵抗を覚える人もいる
- 財産のみの管理であり、身上保護は対象外である
- 受託者が信託財産の処分権限などがあるため、相続人間で揉める可能性がある
- 信託財産以外の財産は遺言書を別途必要になる等
【生前贈与や遺言の作成】
生前贈与:暦年贈与と相続時精算課税制度の2つがあります。
令和6年1月1日から相続時精算課税制度において110万円の基礎控除が創設されました。
制度改正において相続時精算課税制度は使い勝手がよくなってきました。
なお、一度、相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税には戻ることはできないことは従来と変更はありません。
遺言書:実務的には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」を作成することがほとんどです。
遺言についてはそれぞれこちらをご参照ください。
これらの手続きには法律的な知識が必要なため、弁護士、司法書士、税理士、行政書士などに相談するとスムーズです。
※参考 日本公証人連合会
地域包括支援センターやケアマネージャーでは対応が難しい分野

親の介護に関する相談窓口として、地域包括支援センターやケアマネジャーが思い浮かぶかもしれません。
地域包括支援センターは、高齢者の心身の健康の維持、生活の安定、保健・福祉・医療・介護予防の向上と増進のために必要な援助や支援を包括的に担う地域の中核機関で、「社会福祉士」「保健師(又は経験のある看護師)」「主任ケアマネジャー」などの保健福祉・介護などの専門スタッフが相談・支援を行います。
このように地域包括支援センターの窓口は、保健福祉や介護などの専門家であり、「長期的視点になったマネープラン」や「財産の活用」、「相続対策や信託」などの専門家ではありません。
親の資産をどう有効活用するかといった具体的なアドバイスは、FPや行政書士などの専門家でないと対応が難しいのが現状です。
そのため、親の財産管理などに不安を感じたら、地域包括支援センターではなく、包括的の相談できるFPや司法書士、行政書士などに相談するのが適切です。
まとめ
親の年金や貯金だけでは生活が厳しいと感じたら、できるだけ早く対策を講じることが重要です。
- まずは現状を正確に把握する
- 公的制度や親の資産を活用して負担を軽減する
- 必要に応じて家族で話し合い、支援の方法を検討する
- 認知症になる前に財産管理の準備をしておく
介護やお金の問題は、後回しにすると選択肢が限られてしまいます。
親がまだ元気なうちに、専門家と相談しながら最適な対策を考えておきましょう。
「親のお金の管理が心配」、「介護費用をどのように準備すればいいのか分からない」という方は、ファイナンシャルプランナーや行政書士にご相談ください。
専門家のサポートを受けることで、最適な選択肢を見つけることができます。