認知症の親に生命保険金を使わせたい…できる?できない?備えておきたい制度とは

「親が昔加入していた保険があるようなんです。

 

でも、最近は認知症が進んできて、介護費用をその保険から出せないかと思っているのですが、家族が手続きできますか?」

 

高齢化の進行とともに、こうしたご相談もいただくこともあります。

 

親が認知症になると、お金の管理が難しくなり、いざという時に保険を使おうと思っても「契約の壁」にぶつかってしまうケースが多くあります。

 

今回は「認知症の親の保険金は家族が使えるのか?」というテーマについて、知っておくべき制度や事前にできる備えを解説していきます。


認知症と保険契約の“壁”

まず、最初にお伝えしたいのは、生命保険は「契約行為」であり、原則として契約者本人が意思をもって手続きすることが必要だということです。

 

保険には「契約者」「被保険者」「保険金や給付金の受取人」の3つの立場がありますが、多くの場合、親が自分で契約(契約者)し、自分が保険の対象(被保険者)になっている形です。

 

このような場合、解約や名義変更、保険金や給付金の請求といった手続きをするためには、親自身(契約者)の意思確認が必須となります。

 

しかし、認知症が進行して「契約の内容を理解できない」「自分で判断できない」といった状態になると、意思能力がないと見なされ、保険会社は手続きに応じてくれないことがあります。

 

つまり、「親のお金を親のために使いたい」と思っても、家族だけで自由に手続きはできないのが現実です。


指定代理請求人制度という備え

認知症の進行などにより本人が意思表示できなくなってしまうと、たとえ必要な保険金や給付金があっても、手続きを進めることが難しくなります。

 

そうした状況に備えるための仕組みの一つが、「指定代理請求人制度」です。

 

この制度は、主に医療保険、がん保険、民間の介護保険など、被保険者本人が給付金を受け取るタイプの保険で用いられており、あらかじめ登録しておいた家族などが、本人に代わって給付金の請求手続きを行えるようにするものです。

 

本人が意思を示せない状態でも、必要な給付金を受け取れることになります。

 

ただし、指定代理請求が可能な給付金や保険金の範囲は、保険会社ごとに異なります。

 

全ての保険商品にこの制度が備わっているわけではありませんし、制度があっても事前に登録をしていなければ利用することはできません。

 

そのため、契約内容をきちんと確認し、元気なうちから準備をしておくことがとても重要です。

 

また、指定代理請求人制度は、契約者と被保険者が同一人である場合には、「保険料払込免除」の手続きにも利用できるケースがあります。

 

たとえば、重篤な疾病により支払いが困難になったとき、代理人が手続きを進めることで、保険契約を継続しながら保険料の負担を軽減することができます。

 

指定代理請求人の指定方法としては、一般的には「指定代理請求特約」(特約保険料は無料)を契約時に付加し、その際に代理人を指定します。

 

保険会社によっては、特約という形ではなく、保険金受取人の指定とあわせて契約時に代理人を登録する形式を採っている場合もあります。

 

なお、契約の途中であっても、被保険者本人の同意があれば、指定代理請求人の新規指定や変更は可能です。

 

状況の変化に応じて、柔軟に対応できる制度となっています。

 

将来、本人が手続きできなくなる可能性を考えると、「指定代理請求人制度」はとても心強い備えとなります。

 

いざという時に慌てずに済むよう、早めの確認と準備をおすすめします。

 

※参考 生命保険文化センター


成年後見制度で財産管理を行う方法も

もし、既に認知症が進んでしまい、保険会社が「本人の意思確認ができない」と判断した場合には、家族が勝手に手続きすることはできません。

 

そうした場合に用いられるのが「成年後見制度」です。

 

成年後見制度では、家庭裁判所を通じて家族や弁護士などの専門家が後見人に選ばれることで、本人の財産管理や契約手続きを代理で行えるようになります。

 

保険の解約や名義変更も、後見人として正式に認められれば対応できるようになります。

 

ただし、後見制度には申立ての手続きや費用がかかり、利用には一定の時間などが必要です。

 

さらに、後見人としての支出にも裁判所のチェックが入るため、柔軟にお金を使えないというデメリットもあります。

 

法定後見制度 法務省


認知症になる前に保険加入はできる?

「これから保険に入って備えておきたい」と考えるご家族は少なくありません。

 

しかし、すでに認知症の診断を受けている場合には、新たに生命保険や民間の介護保険などに加入することは、基本的には難しいと考えておくのが無難です。

 

保険契約には、基本的に「告知義務」があり、契約時には現在の健康状態を正確に申告しなければなりません。

 

すでに、医師から認知症の診断を受けている場合、その事実を伏せて契約することはできませんし、たとえ申告したとしても、保険会社は高いリスクがあると判断した場合は、契約を断るケースがほとんどです。

 

つまり、「いずれ必要になるかもしれないから、そのときに入ればいい」と考えていると、いざという時には加入できない可能性が高いということです。

 

だからこそ、元気なうちにどう備えておくか、という視点がとても大切になります。

 

保険を活用するなら“契約者”にも注意を

また、「親が被保険者」の保険を活用する際には、「誰を契約者にするか」も重要なポイントです。

 

たとえば、終身保険に加入する場合、契約者を子どもにしておくと、親が認知症になった後でも、保険の解約や名義変更といった手続きがスムーズに進められます。

 

親が亡くなり、死亡保険金を受け取る際、契約者、被保険者と死亡保険金の受取人の関係によって課税される税金の種類が異なります。

 

たとえば、

  • 契約者=子ども、被保険者=親、受取人=子ども(契約者の場合):所得税の対象(相続税の対象ではない)
  • 契約者=子ども、被保険者=親、受取人=親の配偶者(契約者以外)の場合:贈与税の対象(相続税の対象ではない)

このように、契約形態によって税金の種類が違ってくるため、契約時には十分な注意が必要です。

 

保険は「いざという時の備え」として有効ですが、契約形態によって大きく結果が変わる可能性もあるため、専門家のアドバイスを受けながら進めることをおすすめします。


まとめ

保険は「親のお金を、親のために使う」ための一つの手段ですが、認知症が進んでしまうと、そのハードルが一気に高くなります。

 

指定代理請求人制度のような仕組みを活用すれば、万一のときに給付金や保険金が使える可能性が広がりますし、家族信託や後見制度なども含めて、事前に備えることで「困らない介護」に近づけます。

 

「もっと早く知っていればよかった…」という後悔が残らないように。

 

お金のことを話しにくいと感じる方も多いですが、元気なうちだからこそできることがたくさんあります。

 

ご相談はこちらから

 

当事務所では、「認知症に備えるお金の管理」「保険の活用と名義の注意点」「家族信託や成年後見の使い分け」など、状況に応じた個別アドバイスを行っています。

 

「うちの場合はどうだろう?」と思った方は、ぜひお気軽にご相談ください。

ご相談はこちらから

 

また、介護や生活に関するさまざまなテーマについて、介護ポストセブンでも取り上げています。こちらの記事もぜひご覧ください。

 

メディア掲載実績
私のコメントや情報提供を行った記事が、以下のメディアに掲載されています。詳しくはこちらをご覧ください。


親の介護、準備できていますか?チェックリスト10

「親が後期高齢者になったけど、何を準備すればいいかわからない…」

そんな方のために、今すぐできるチェックリストをご用意しました!

 

親の年金額と貯蓄額を把握している

親が要介護になった場合、どのくらいの費用がかかるか試算したことがある

介護費用をどこから出すのか決めている(親の資産・子どもの援助など)

親の銀行口座や財産を管理する方法(家族信託・成年後見など)を考えている

親が認知症になったときの財産管理・手続きをどうするか決まっている

介護施設に入る場合の費用や条件を調べたことがある

介護費用の公的支援制度(高額介護サービス費・税控除など)を理解している

兄弟姉妹と介護費用や負担について話し合ったことがある

介護が必要になったとき、誰が主に対応するのか家族で合意している

親と「介護が必要になったときの希望」について話したことがある

 

5つ以下の方へ

介護費用や生前対策が不十分な可能性があります。

いざというときに困らないために、今のうちに対策を進めましょう!